技術情報

このページは皆様からの関心の高いご質問についてお答えすること、弊社からのご連絡を中心に記載しています。

分析用薄膜中の不純物

蛍光X線分析ではポリプロピレン,マイラーなどの高分子膜を溶液,粉末などの試料保持に使用します。最近は蛍光X線分析装置の性能も格段と向上し、高分子膜作成の際に使用されたppmオーダの触媒残渣も検出され微量分析の際に問題になります。このため、分析に使用する主な薄膜について定性分析(9F~92U)を行い薄膜中の不純物を調べました。測定は蛍光X線分析装置付属の試料ホルダにアクリル容器を入れて試料ホルダからの散乱X線を防止し、分析に使用する薄膜はそれぞれ1枚としました。


図1.薄膜分析用ホルダ

測定結果を表1に示します。


表1.薄膜1枚からの検出元素

◎:明らかに検出される(1Kcps 以上)   ○:検出される(0.1 Kcps 以上)

触媒残渣としてポリエステル(マイラー)ではCa, P, Sb, Fe, Zn ポリプロピレンではCa, P, Fe, Zn, Ti, Al などがppmレベルで含まれると言われていますが、薄膜は試料厚さが非常に薄いことにより重元素範囲(22Ti~92U)は蛍光X線発生率が悪くあまり検出されず、軽元素がよく検出されます。
Si, S は薄膜に含まれていなくても大気中から、またNa, Cl などは人の手で触れることによる汚染から検出される場合があります。その他、分析装置の型式によりFe, Ni,Cu, Rh(X線管ターゲット材)など分析装置からの不純線がありますので注意して下さい。
表1の測定結果は蛍光X線分析装置の型式によってX線強度は異なります。また、薄膜のロットの違いによっても異なる場合があります。微量成分分析の際は薄膜のブランクテストを行うことをお奨めします。

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微量粉末試料中の軽元素の測定

耳かき1~2杯程度の粉末試料を分析する場合、重元素範囲(22Ti~92U)であれば微量粉末試料容器(Cat.No.RS540)を使用して測定できますが軽元素範囲(9F~20Ca)は試料表面に被せる薄膜のためにX線強度が減衰して微量成分の測定は困難です。例えば最も薄いウルトラポリエステル膜(1.5μm厚)を用いてもF-Kαの透過率は約10%,Na-Kαで約40%です。また、試料量が微量であるため加圧成型することもできません。このような場合に微量粉末用試料皿(Cat.No.RS550)が有効です。微量粉末用試料皿は図1に示すようにリングの上に薄膜を貼り、中央に粉末試料を接着するためのテープが接着しています。


図1.微量粉末試料皿

テープ上面に微量の粉末試料を貼り付けて分析に供します。Cat.No.RS550は薄膜の直径が32mmありますので蛍光X線分析装置付属の試料ホルダ用小径マスクは不要です。分析用薄膜の不純物測定と同様、試料ホルダからの散乱線を防止するためにアクリル容器(Cat.No.RS200)を使用します。図2に耐火物標準試料(JRRM124)を用いた付着試料量とX線強度の関係を示しました。測定装置はRIX3000です。


図2.付着量とX線強度
JRRM124:主成分SiO2 = 74 mass%, Al2O3 = 17%, P2O5 = 0.19%, MnO =0.24%, Na2O = 0.31%

検出限界は0.1~0.2 mg 程度と考えられます。微量の試料を接着面に均一に貼り付けるのはかなりの熟練が必要ですが、適当量を貼り付けて定性分析を行うのは容易です。

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分析用薄膜の選択

試料容器に薄膜を張って分析を行う場合、分析試料から発生した蛍光X線は薄膜を透過して測定されるので、特に軽元素(9F~21Sc)の測定では薄膜の材質,厚さがX線強度に影響をあたえます。また、薄膜は一般に高分子膜ですので製作の際の触媒残渣などの不純物がppmレベルで含まれています。マイラー膜(ポリエステル)ではCa, P, Sb, Fe, Zn.ポリプロピレン膜ではCa, P, Fe, Zn, Cu, Zr, Ti, Alなどがありますので微量成分の分析の際はブランクテストが必要です。

上の図は測定する試料の上に薄膜を一枚のせた場合とのせない場合の各元素のKα線の強度比を示しました。薄膜の正確な透過率ではありませんが実際に分析する場合の薄膜による減衰の様子が示されています。同じ材質であれば厚さが薄ければ薄いほど透過率は大きくなりますが、機械的な強度は減少します。また、耐薬品性も考慮して測定目的に合わせた薄膜の選定が必要です。

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微量試料分析の場合の試料厚さと面積

一定重量の少量試料を分析する場合、分析面積を小さくして厚さを厚くするか、面積を広げて薄くするかの方法が考えられます。ポリエステル膜中のCaのKα線を用いて面積と厚さに対するX線強度を測定しました

横軸はポリエステル膜の重量で、図中の10mmφ,15mmΦ,20mmφ・・・ は試料のX線の照射面積です。この図から試料重量が一定,例えば50mgであれば照射面積の広い方がX線強度が高いことがわかります。また、面積が一定であれば試料重量を増して行くとX線強度が徐々に増加し、重量を増してもX線強度は変化なく安定した状態になります。以上、測定するX線波長と試料の吸収係数によってカーブの状況は多少異なりますが同様のことが云えます。試料量が少ない場合には、できるだけ面積を広げてX線強度を確保し、試料量は一定量秤取するのがよいと考えられます。また、Sn-Kαなど波長の短いX線は透過率が高いのでLαを使用することも有効な方法です。

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