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全散乱解析(TXS)プラグインの紹介

リガクジャーナル 2023年 10月54巻 2号 通巻120号
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Li-ion電池の正極材(1)(,2),固体電解質(3)–(5),負極材(6)(,7)や強誘電体(BaTiO3)(8)–(10)など,様々な材料の機能の発現には局所構造が重要であることはよく知られています.局所構造の評価手法の1つとしてPDF解析が注目されています.これは測定した全散乱(TotalX-rayScattering,TXS)データから試料由来の干渉性散乱強度のみを抽出後,フーリエ変換によって2体分布関数PDF(G(r))を算出する解析法のことです.多くのPDF解析は実測値から得られたGobs(r)と結晶構造モデルと多くのパラメーター(例えばbroadeningfactorやdampingfactorなど)を使って計算されたGcalc(r)がGobs(r)をどの程度再現するかに重点が置かれていました.しかし,この方法によって得られる構造モデルは単位格子であるため局所構造の定量的な評価ができませんでした(すなわち,各元素の変位ヒストグラム解析などの特徴量).PDF解析という用語と一緒に使われることが多い全散乱解析は,PDFだけでなく構造因子S(Q)の取り扱いも対象としています.図1に示すのは全散乱解析とPDF解析の関係性であり,PDF解析は全散乱解析の一部だということがわかります.全散乱解析はPDF解析ではうまく扱うことができない定量的な局所構造に関する情報を得ることができます.

上述のような材料群の開発へ世界中が加熱する中で,ラボ装置を使った全散乱強度の測定からの局所構造解析のニーズは高まっており,さらに手軽に全散乱解析を実施できることが求められています.別なリガクジャーナルで報告(11)したように,Agターゲットと高エネルギー対応の検出器を搭載したSmartLabによって放射光と同等の全散乱データを取得することができるようになりました(図2)(11).さらに測定・解析統合環境SmartLabStudioII(SLSII)へR.L.McgreevyとL.Puzaiらによって報告されたReverseMonteCarloRMC法(12)を改良したRMCオプションが搭載されました.このRMCオプションを使うことによって,結晶中の局所構造を容易に測定・評価することができるようになりました.また,これまで「PDFプラグイン」と呼ばれていた解析機能を「全散乱解析プラグイン(TXS)」と名称を変更しました.これは上記のようにPDF解析は全散乱解析の一部である,という解釈に合わせたものです.

本稿では,全散乱解析プラグインの基本的な機能や特徴を実際の解析事例を交えながらご紹介いたします.

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